2010年9月30日木曜日

たちよみ『VOL lexicon』

[海賊]

1、船を操って海上に横行し、商船や沿岸集落を襲って略奪を働く盗賊。国家に服属せず、あらゆる国家に敵対する。自主独立の無法者。無政府主義者の原型。
2、海賊の歴史は古く、陸上の国家文明を幾度も脅かしてきた。国家は土地を領土にするが、海を領土化することはできない。国家が主張する「領海」は、国家間の取り決めとしては有効だが、海賊の活動を制限するものではない。そのため、国家の法は常に海賊に脅かされ、妥協を強いられる。海がある限り、国家の法が完成することはなく、破れ目をもちつづける。
3、植民地貿易の拡大に伴って、船上の叛乱が頻発するようになる。原始的なルンペンプロレタリアートである水夫たちは、船長を殺して船を奪う。水夫が占拠した船は海賊船となり、犯罪者や脱走兵や逃亡奴隷を味方にし、おたずね者になった自由主義者や平等思想と交わっていく。17世紀から19世紀にわたって繰り広げられた海賊と植民地主義国家との闘いは、洋上の階級闘争と呼びうるものへと発展していった。
4、植民地主義の国家は、海賊を飼いならすことに成功した。国家の許可を得て他国の商船や領土を襲撃する船は、一般的な海賊と区別され、私掠船(コルセール)と呼ばれる。大英帝国と契約した私掠船は、スペインの商船や植民地を襲撃し、強奪品の一部を国家に上納した。
5、近代の海賊が独身者の集団であるというのは偏見である。海賊にも妻子がある。ただ彼らは生命や地位や財産が極端に不安定であったから、ブルジョア式の家族を形成することはなかった。近代の海賊は、ブルジョア家族制とは別の形式で、孤児に相応しい乱婚的な家族を持ち、義兄弟を持ち、船上に集住して暮らしたのである。近代海賊が活躍した後に、フランスの社会主義者シャルル・フーリエは集合住宅様式(ファランステール)を発明し、近代住宅建築の歴史的一歩を踏み出すことになる。
6、海賊は特定の陣地をもたず(非場所的)、どこにでも現れる(遍在的)。姿を偽装して近づき、敵が強ければやり過ごし、敵が弱ければ襲撃する。敵の船と積荷を奪い、自分の武器にする。隊内の階級制度は脆弱で、船長と水夫が交替することもしばしばある。支配(平和)のために戦争をするのではなく、戦争の継続のために戦争をする。海賊の戦争様式を陸上の戦争に応用したのが、パルチザン戦争である。毛沢東の「遊撃戦論」は、正

(海賊 『VOL lexicon』 以文社 2009)