2013年3月15日金曜日

被曝社研レジュメ2、放射線防護の争点 


明日、第二回被曝社会研究会です。

合宿です。

レジュメをもう一枚、早見表みたいなものをつくったので、参加者はざっと目を通しておいてください。防護に取り組んでいる人には釈迦に説法かもしれませんが、整理して眺めてみると、意外に忘れてた論点が出てきそうです。
以下、本文。
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  放射線防護の争点

. 問題となる主な核種
 

ヨウ素131(※)
 ベータ線(電子)を撃ちだし、それに伴ってガンマ線(電磁波)を放出する。
 崩壊後にキセノンになる。
 半減期8日。80日後に1024分の1まで減少。

トリチウム(水素3、三重水素)
 ベータ線を撃ちだす。
 崩壊後ヘリウムになる。
 半減期12年。120年後に1024まで減少。
 水に混入する。

セシウム134(※)
 ベータ線を撃ちだし、それに伴ってガンマ線を放出する。
 崩壊後にバリウムとなる。
 半減期2年。20年後に1024分の1まで減少。
 カリウムを含有する食品に混入。

セシウム137(※)
 同上。
 半減期30年。300年後に1024まで減少。
 カリウムを含有する食品に混入。

ストロンチウム89
 ベータ線を撃ち出す。ガンマ線は出さない。
 崩壊後にイットリウムになる。イットリウムはベータ崩壊し、ジルコニウムになって安定する。
 半減期50日。500日後に1024分の1まで減少。
 カルシウム食品に混入する。

ストロンチウム90
 同上。
 半減期28年。280年後に1024分の1まで減少。
 カルシウム食品に混入する。

放射性銀(銀106m、銀108m、銀111
 ガンマ線を放出する。
 銀111は崩壊後にカドミウムになる。
 貝類に濃縮する。
 
プルトニウム239
 アルファ粒子を撃ちだす。
 崩壊後にウラン235になる。
 半減期24千年。24万年後に1024分の1まで減少。

ウラン235
 アルファ粒子を撃ちだす。
 半減期7億年。70億年後に1024分の1まで減少。

アクチニウム系列(ウラン235の娘核種)
 プルトニウム239を起点に鉛207で安定するまで、アルファ崩壊とベータ崩壊を重ねていく。ビスマスや放射性鉛などから測定することができる。(別表参照)

)の核種は、現在の土壌検査・食品検査で測定されているもの。


. 測定をめぐる争点

 空間線量率の問題1
 現在、公的機関が行っている空間線量率計測では、シンチレーション方式の機器が採用されている。この方式は、ガンマ線を検出するが、ベータ線を検出しない。空間中に飛び交うベータ線(飛距離1m~1.7m)は、数値に反映されず無視された状態である。ウクライナ等で使用されるガイガーミュラー管方式(ガイガーカウンター)では、ベータ線とガンマ線を両方カウントするが、日本政府はこの種の機器を排除した。

 空間線量率の問題2
 公的に発表される空間線量率は、CPM(カウント毎分)ではなく、「マイクロシーベルト毎時」という単位で統一されている。しかし、換算につかわれる「検出効率」などの係数は統一されておらず、国やメーカーによって異なっている。検出器が検知したCPMから「マイクロシーベルト毎時」へと換算する過程で、数値の操作ができてしまう。
 福島県に設置された地上モニタリングポストでは、市民団体がおこなった計測値の約半分の数値しか表示していないという結果が出ている。

 空間線量率の問題3
 現在の汚染環境は、線源(放射性物質)が密閉・固定された状態ではない。線源の粒子がモザイク状に分布し、これがさらに、移動・希釈・蓄積という動態をつくっている環境である。このなかで、ある地点の「空間線量率」を計測しても、そこからわかることや言えることは少ない。サンプリングという方法自体に疑問符をつけざるをえない。

 食品検査の問題1
 シンチレーションスペクトロメータやゲルマニウム半導体検出器は、ガンマ線を放出する核種しか把握していない。ガンマ線を放出しないストロンチウムやアルファ線核種については放置されている。

 食品検査の問題2
 現在ある測定機材が、おもにセシウムしか測れないため、農産物ではセシウムのロンダリングが組織的に行われている。農地にカリウム肥料を投入し、セシウムの移行を低減させるように、自治体や農協が指導している。このことでセシウム以外の核種の汚染は見えなくなっている。

 食品検査の問題3
 空間線量率の問題と同様に、サンプリングという方法自体に疑問符がつく。汚染の分布と動態が少しわかってくれば、サンプル抽出の際にそれを外すことができるようになる。とくに農産物については、商品とサンプルと自家消費分を分けるのは容易である。

 食品検査の問題4
  粉、液体、練り物などの加工食品、「陰膳」調査(一食まるごと調査)等は、希釈効果によって汚染を見えなくする。検出限界の性能は機材によって異なるが、市民測定所の能力では3Bq/kgまで確認するのが精一杯である。これをぎりぎり下回るレベルで、汚染された国産小麦や加工食品が流通している。


 人体の検査
 ホールボディーカウンターはシンチレーション検出器なので、ガンマ線を拾うだけである。ストロンチウムは把握できない。表面汚染と内部汚染を分けているかどうかも怪しい。また、患者を長時間拘束することは難しいので、検出限界は高い(甘い)。
 尿検査はきちんと体制を整えればストロンチウムを調べられる可能性がある。しかし骨に蓄積してしまった分についてはわからない。
 髪の毛には体内の重金属が排出されるので、ここからウランやアクチニウム系列の物質を把握できるかもしれない。


 呼吸内部被曝の問題
 汚染地域やがれき焼却地域で懸念されている呼吸内部被曝は、ほとんど調査も研究もされていない。今後はアスベスト被害の研究などから学ぶことになるだろう。

 アルファ線核種とトリチウム
 プルトニウム、ウラン、アクチニウム系列の放射性物質は、ほとんど無視されている。
 トリチウムは「人体に影響がない」とされているが、実際にはたんに研究されたことがないというだけの話である。トリチウムという物質は核融合爆弾の核心部分であるため、公開されている情報が非常に少ない。