2013年12月9日月曜日

移住者たちの美しさ



 名古屋には移住者たちのNPOが複数ある。移住者支援のNPOではなく、移住者が主体となって運営されているNPOだ。そのうちの一つに私は参加していて、といってもあまり熱心な会員ではなくて、もっぱら飲み会に参加しているだけのぐうたら会員だ。
 昨日は名古屋市内の会場に集まり、小さな子供たちのためのクリスマスパーティーと、大人たちの忘年会が催された。移住者をとりまく状況は深刻で息の詰まるものだが、飲み会はとても盛り上がった。

 女性たちが美しくなっている。何人も子供を産んだ母親たちが、まるで20代のように若々しくなっている。このグループがつくられてからの1年間で、驚くほど変化した。育児に忙殺され疲れているはずのひとたちが、どんどん若くなり、美しくなっている。
 なぜ彼女たちは美しくなったのか。

 ひとつには状況がそれを強いたということがある。彼女たちは新しい土地で生きていくために、美しくならなければならなかった。人並みに美しいというのでは足りない。味方になるものがほとんどいないなかで、他人を惹きつける美しさを身につけなければならなかった。

 もうひとつは報復感情である。彼女たちは生活の基盤を奪われ、ほとんど裸同然の状態で焼け出されてきた。職場でも、地域でも、家族や親戚にも理解されず、まったく孤立した状態で移住を決意した。このとき移住者は、「絶対に幸せになってやる」と、固く胸に誓う。これはただ救済をもとめているのとは違う。移住者にとって「幸せになる」こととは、それ自体が、自分を踏みつけにした社会への復讐なのである。だから私たち移住者は、白髪交じりの疲れた顔で惨めな姿をさらすわけにはいかない。それは敗北に敗北を重ねることになる。政府と東京電力とこの社会全体に報復するために、移住者は強い目的意識を持って美しくなっていく。
 彼女は美しさに磨きをかけながら、報復の機会をうかがう。
 まるで全ヨーロッパを敵にまわした近代海賊のように。


 いま名古屋には海賊のような主婦が徘徊している。