2014年4月23日水曜日

軍手について


 最近、ある職人と友達になって、手の使い方やハサミの話とかができて、楽しい。
ので、ちょっと職人っぽい話を書く。今回は自分の楽しみのために書く。



 昔から不思議に思っていることがあるのだが、軍手ってなんだろうか。あの、綿でできた手袋。日本では作業用手袋の代名詞といえるほどポピュラーで、作業用品店にいけば、ごそっと束で売っている。あれは、謎だ。
 誰でも一度は軍手を使ったことがあると思う。そこでちょっと思い出してほしいのだが、軍手って使いづらくないか? 私の経験で言うと、「軍手って便利だなあ」と感じたことがない。あんな手袋で作業をしても、つらいだけだ。実際に現場で仕事をしている職人なら知っていると思うが、あれって使わないよね。ちゃんと作業をするなら、ゴム手袋か、革手袋か、もしくは素手だよね。
 いったい誰があの綿の手袋を買っているんだろう。


 軍手の使えなさは、言い出すときりがない。あらゆる面で機能性が低い。低いというだけでなく、マイナス面が多い。
 まず、隙間だらけだから、手にトゲが刺さる。木のささくれ、鉄のバリ、土に埋まっている釘やガラス片、等々、尖ったものを全部スルーしてしまうから、手が痛い。
 隙間だらけだから、手が汚れる。農作業をしたら手が泥まみれ、コンクリを扱えば手がセメントまみれ、金属加工をしたら油まみれ、なんのために手袋をしているのかわからない。
 厚みもない。建築や土木の作業では、モノを殴って動かしたりする場面があるのだが、あんなペラペラの手袋では力いっぱい殴ることができない。モノを握って曲げたり砕いたりということもできない。
 摩擦係数が低い。スルスルすべってしまうから、モノをしっかりつかむことができない。ハンマーやバールやラチェットが手から逃げてしまう。あと、ちょっと重量のあるダンボール箱も持ち上げられない。金属加工の現場では、しっとりと油にぬれた鋼材を扱うわけだが、軍手なんかはいていたらスルスルと手から逃げて落としてしまう。
 かといって、手の上をすべらせたいときには、ちゃんとすべってくれない。長さのあるモノをすべらせて動かしたいのに、枝木のトゲや材木のちょっとしたささくれにひっかかったりして、どうにも面倒くさいことになる。
 防水性がない。濡れ放題である。夏ならまだいいが、冬に手が濡れると凍えてしまって感覚がなくなる。
 断熱性がない。切削したばかりの鋼材とか、夏の日差しでチンチンに熱くなった鉄パイプとか、熱いモノをつかむことができない。
 機械に引っかかる。回転しているドリルの刃先とか、回転する旋盤のチャック(材料をつかむ爪の部分)とか、ひっかかってはいけないところに、あの綿のほつれが引っかかって手を巻き込んでしまう。こんなばかげたことで、指を失うような労働災害をひきおこすのである。

 こうやって書き出してみると、本当に謎だ。あの軍手という手袋はなんのためにあるのだろうか。手を保護しない危険な手袋。実質を欠いた、みせかけだけの手袋。作業効率をあげるどころか足をひっぱっているだけではないか。こんな不合理なものが作業用品の代表のようにみなされていることは、日本の産業文化の汚点だと思う。



 軍手をはいていたのでは、ちゃんとした作業はできない。知っている人間は知っていることだ。
 しかし、それでも軍手は大量に生産され、束で売られている。現在でも軍手は作業用手袋の代名詞である。だから学校は生徒たちに軍手を配るのだ。本当はちがうのに。